一日目 笹ヶ峰から高谷池 秋雨前線が大陸から南下していた。南の海上からは台風17号が接近しており、どちらの影響も受けそうな気配だが、どうやらその谷間にいるようで、まだ雨は落ちて来ない。 妙高高原駅から笹ヶ峰行きのバスは、9/20〜28まで舗装工事のため手前の「杉の沢」までしか行かないと看板が出ていた。 「9/20て今日なんだぁ!」タクシーで笹ヶ峰の登山口まで運んでもらうこととした。 雨は山に近づくにつれてポツンポツンと落ちてきた。運転手さんの案内で登山口近くの乙見食堂に入る。雨も結構降ってきていたので昼食に山菜そばをゆっくりと食べられたこと、雨具の支度をするのに濡れずに済んだのは助かった。囲炉裏があって、炬燵やストーブも出ていて、もう冬の準備をしていた。 12時15分、歩き出しは小雨だった。黄葉しはじめたブナの林をゆるやかに登ると、やがて黒沢に着く。黒沢にかかっている橋は大きな木をそのまま横倒しにしたようなもので、ささやかな手すりがついている。雨で滑りそうなのでそっと手を添え慎重に渡る。 地図を見ると黒沢から富士見平までの間に、十二曲がりという名のついた急坂がある。等高線は蜜になっているし、下りなら45分の道を登りは1時間20分とあり、きつい登りだった。 上下レインウェアの内側からは大汗、空からは雨で辺りを見回す気力もなくなってくる。 |
笹ヶ峰登り口 | 高谷池ヒュッテ前 |
樹林帯を抜けたところでドーッと雨が強くなった。晴れていれば「いい眺めねぇ」とか言ってひと息いれるところであるが、手の甲に痛いほどの雨が打ち付けるのでそれどころではなく黙々と歩く。足元では、山道が沢のようになり、今降ったばかりの雨が下へ下へと急いで流れ落ちていく。 富士見平の分岐を過ぎてからは、傾斜もゆるくなり木道もところどころに現れてきて楽になる。 高谷池ヒュッテまであと8分という道標を見つけた時は本当に嬉しかった。もう歩かなくていいんだと・・・・・。「小屋だよぉー」というだんなの声で目線を足元から上へ向けると、すぐそこにとんがった三角屋根が見えた。16時00分到着。 手短に雨具の始末をして、汗で濡れた衣類を着替えると、やっとくつろげる状態になった。 三木さんとだんなはもうとっくに一杯やっていた。混雑時には120名も泊まることができるという小屋の宿泊者は、私達を含めて11名だった。(今日は1枚の布団にゆったりと寝れそうだ。)ここの利用料金は素泊まり(寝具付)で3000円だった。 「うわぁーきれい!!」という第一声で始まった小屋の好印象は沢山あった。まず、ロケーション。小高い山に囲まれた高谷池は草紅葉の中に地塘が点在し、辺りの木木も鮮やかさを競いあっている。そんな端っこに三角屋根の小さな小屋が建っている。小屋から見える広い前庭は今、紅葉が真っ盛り、独り占めという感じだ。 小屋の内部の畳敷き(1階のみ)。窓際に木製の手作り風のテーブルとベンチが3組置かれていた。ストーブの傍らにはロッキングチェアもあってかわいい。 自炊場は独立しているが、食べるのは小屋の中でよかった。自炊場にはプロパンガスのボンベが7〜8台、鍋、飯ごう、食器等かなり揃っていて感心する。日本茶のティーバックも自由にお使いくださいとあった。ただし本来はこういった道具は各自が用意するものだとしたためてあり、注意を促してした。この小屋は自炊が主体で、小屋でも食事を頼めるがレトルトだとガイドブックには出ていた。自炊は私達だけだったが、メニューは小屋食も同じで部屋の中はカレーの匂いが立ち込めていた。 トイレも独立していてイャーな臭いがない。それもそのはず、常に左から右に流れている水洗トイレである。個室のドアの中には額に入った絵はがきふうのものが飾ってあり、これもまたかわいい感じがした。それにトイレットペーパーも付いていた。 水場は小屋から10〜20mくらい行ったところにある。寝る前にヘッドランプを点け長靴を履き傘をさして歯を磨きに行ったら、真っ暗でクマとかサルが急に出てくるのではないかと思って怖かった。 雨はまだ降り続いていた。 「今晩ドッーと降ってしまえば明日は降らないよ。」と言うだんなの言葉に願いを託して、眠りに付く。 |
高谷池ヒュッテ前 | 高谷池ヒュッテ | ||
高谷池ヒュッテ前 | 天狗の庭 |
二日目 高谷池〜火打山〜黒沢池〜長助池分岐〜関温泉 昨日の雨は秋雨前線のものだった。通り過ぎて行ったみたいで、今朝はどんよりとしているが、雨はあがっていた。いつもそうするように、小屋の前から辺りを見回すと、今日登る火打山がくっきりと見えた。上空は雲に覆われ、下界は雲海に包まれている。つまり、私達はその中間の高度のところにいる訳で、紅葉を楽しませてもらっている。秋色に染まった小屋前のテーブルでカップラーメンとパンの朝食をとる。 6時40分、計画書より40分遅れて出発する。サブザックに水と行動食を詰めて火打山へのピストンだ。木道を進み『天狗の庭』に出る。イワイチョウが緑から黄色に染まって絨毯のように見える。その絨毯から黒っぽい岩がポコポコと顔を覗かせている様は実にイイ。そしてななかまどの赤が秋色を一段と鮮やかにする。池塘には火打山が影を落としているが、水面が波立っていてくっきりとは写らない。夏にはハクサンコザクラの大群落が素晴らしいそうだ。 稜線に出ると日本海と直江津の町がきれいに見えた。両側を山と山で挟まれて日本海からの冷たい風が吹き抜けそうな地形をしている。 火打山頂上は背の低い標識以外何もない所だが360度のパノラマが楽しめる。近くに活火山の焼山が煙を吐いている。遠くには南アルプスの山々、八ヶ岳、苗場山、越後三山などが確認でき、目の前には焼山と金山の間に白馬から五竜、その後に剣、槍も確認できた。 |
火打山山頂より白馬方面 | 火打山山頂より妙高山 |
山頂をあとに高谷池に戻りメインザックを背負いなおし、今度は妙高山を目指す。9時45分、やっぱ45分遅れている。この山域は高層湿原地帯で木道と岩道の繰り返しだ。茶臼山を越えて(どこがそうなのか気がつかなかったが)黒沢池ヒュッテに着く。 青いドーム型の屋根が特徴のこの小屋は、窓にレースのカーテンが見える。また、かわいい造りだ。中にも入ってみたかったが水分補給しただけで出発する。 大倉乗越から(妙高山の)外輪山の内側に入るが、ここまで登ってきた時点でゼェゼェハァハァと足取りは重い。一旦下ってから妙高山に取り付くのは気力、体力、コースタイム等からいって無理だ。長助池分岐まで降りたら、計画よりも1時間30分遅れていたため、巻き道の燕新道を下山することにした。 燕新道は沢のような石ころだらけの道で歩きにくいうえ、前日の雨で土もどろどろだ。ブーツに付いた泥まで重いように感じる。迷ったかなと思ったりしながらやっと『黄金(こがね)清水』という名の水場にたどり着く。冷たく美味しい水をごくごくと体に流し込んでから昼食とする。 今回初登場のガーリックスパゲッティ、一口食べて「おいしい!」ではないか、これはイケるとペロット平らげてしまった。パン、ソーセージ、そして味噌をのせたきゅうりを丸かじり・・・・。蚊がたくさん寄ってくるので立ったままの食事は30分程度で終了。突然下のほうからガスが忍び寄って来て、白い世界に飲み込まれてしまった。手早く後片付けをする。 「これじゃ、妙高山の頂上もガスの中だよね」とか言いながら再び下り始める。石ころの衝撃が足裏に痛くしびれて歩きにくい。あとは、温泉と美味しい夕食を思い浮かべ、気持ちを切り替えながら下山した。 燕温泉には3時55分に到着。燕温泉の目抜き通り(超短いが)スイスみたいだと三木さんが言った。さすがヨーロッパ帰り。改めて後を振り返って見るヨーロッパアルプスの街並みに似ているかもしれない。 16時5分発、予定どおりのバスに乗り(乗客は私たち4人だけの貸切状態)、今夜の宿、関山温泉の休暇村に向かう。 チェックイン後はさっそく温泉に浸かり疲れを癒す。夕食には地酒やワインを飲みながらの蟹三昧。しばし会話が無くなって蟹と格闘する。とりわけ蟹スキがおいしかった。 |
黒沢池ヒュッテを目指す | 黒沢池 | |
長助池 | 黄金清水 | |
燕温泉目抜き通り | 関山温泉に向かうバス |